- 性質・性能
ピンホールの発生原因と対策
ピンホールの原因としては、「実際にインキ皮膜に穴が空いている場合」と、「インキ皮膜に粒子が混入しそこから光が透過する場合」の二つのケースがある。
それぞれの発生原因について、詳しく述べる。
1.原因
(1)インキ皮膜に穴が空いてピンホールとなる場合
- 紗跡残り
- スクリーン印刷では、印刷時に印圧により刷版が印刷面に押しつけられると同時に、オープニングをインキが通過して印刷面上に乗る。
- この時、紗の交点で糸が印刷面に接している部分は、インキが直接乗らない部分となる。
- 刷版が離れた後この部分にインキが流れ込むことで均一なインキ皮膜となる。
- ところがインキが何らかの原因で流動しないと、この部分にインキが流れ込まずに素材面が露出した状態となり、このままインキが乾燥してしまうとピンホールになってしまう。
- インキが流動しない原因としては、インキそのものが腰の切れた流動性のない(チキソトロピー性が高い)インキである場合、刷版が古く紗が荒れていたり、インキの硬化皮膜が付着していたりしてインキの抜けが悪くなっている場合等が考えられる。
- 尚、この現象は、素材面への印刷よりもインキ面への重ね刷りの時に起こる事が多い。
- インキ皮膜が柔らかい性質のインキや、指触乾燥状態(皮膜内部が柔らかい)のインキ面への重ね刷りは、印圧により紗が接する部分のインキ面に凹みができてしまう。
- しかも重ね刷りの場合は、印刷直後にインキ中の溶剤が下地のインキ皮膜層に浸透するためインキが流動しにくくなり、凹みにインキが流れ込まなくなるためピンホールとなりやすい。
- また、印刷素材が柔らかい材質(軟質ビニール、ウレタン等)や、溶剤に溶けやすい材質の場合(スチロール、ポリカーボネート等)にも同様の理由でピンホールが発生しやすい。
- 発泡
- スクリーン印刷では、印刷の際にインキがオープニングを通過するとき、インキの粘稠性により気泡が発生する。
- 気泡はインキに添加されている消泡剤の働きで瞬時に破泡して消滅し、インキの流動性により均一な皮膜面となる。
- この時インキ中の消泡剤の効力が弱く破泡しにくいと気泡が残りその部分がピンホールとなりやすい。
- 透明性を重視したインキは、消泡剤の添加によるにごりの発生を嫌って必要最小限の消泡剤しか添加されていないので、問題になることが多い。
- また、消泡剤が正常に働いてもインキの流動性が悪いと破泡した部分が穴となったまま乾燥してしまうためピンホールとなりやすい。
- 流動性の悪いインキを厚膜で印刷する場合は特に問題になるので、注意を要する。
- はじき
- 印刷素材面またはインキにはじきの要因があるとインキ皮膜にはじきが発生し、その部分がピンホールとなる。
- 素材に対するインキの濡れが悪い場合や、素材表面に凹凸、汚れの付着等の問題がある場合が原因として考えられる。
- インキに起因する原因としては、インキ中に添加されている消泡剤やレベリング剤、その他の添加剤類が分離して不均一になっている事が考えられる。
- インキ中の消泡剤、添加剤の影響でインキにはじきが発生する場合は、全体的なはじきによるレベリング不良となりやすく、ゆず肌となる場合が多い。
- 素材表面に凸凹や汚れの付着等のはじきの原因がある場合が部分的なはじきとなり、ピンホールとなりやすい。
(2)インキ皮膜に粒子がある場合
- 印刷時の異物の付着
- インキ皮膜中に粒子が混入するとブツ不良になると同時に、そこから光が抜けるためピンホールの原因となる。
- 皮膜中に粒子が混入する原因は、印刷面にゴミ等の異物が付着していた場合と、印刷後インキが乾燥する前に異物が付着する場合が考えられる。
- いずれもインキ皮膜と異物間に隙間ができる事があり、そこから光が透過してピンホールとなる。
- インキ中に存在する粒子
- インキ中に大きな粒子が混入していると、印刷後の皮膜中にブツが発生しピンホールの原因となる事がある。
- インキ中に含まれる粒子には、着色剤としての顔料粒子や艶消剤として使われる無機系粒子、または、スリップ剤等の添加剤粒子がある。
- これらはインキ製造時に微小な粒子に分散され、通常はその状態が保たれている。
- しかし貯蔵期間が長くなったり、条件の悪い環境で貯蔵された場合などには、経時変化で徐々に再凝集して大きな粒子になる事がある。
- 暗色系の顔料粒子でも、光の当たる角度によっては粒子が光って見えるためピンホールのように見える事がある。
- 艶消剤粒子や添加剤の粒子は、無色透明のものが多く、大きな粒子は光を透過しやすいためピンホールとして認識される事がある。
- しかしこれらのインキ中の粒子は、ブツ不良の原因にはなりやすいが、粒子がインキ皮膜に覆われるためかなり大きな粒子以外は、ピンホールの原因にはなりにくい。
- 印刷素材表面の突起物
- 珍しいケースだが、印刷素材表面に突起物がある事があり、この突起物が大きいとインキ皮膜が覆う事ができずピンホールとなる事がある。
2.対策
(1)紗跡残り、発泡、はじき
これらの問題解決には、インキの粘度と印刷作業(印刷速度、印圧、クリアランス、刷版のメッシュ等)の調整が重要である。
紗跡残りや発泡の防止には、インキ粘度を低くする方法が効果があるが、粘度が低すぎるとはじきを誘発しやすくなる。
また、刷版が古い場合は、新しくするだけで解決する場合もある。
はじきが出る場合は消泡剤の添加が効果的であるが、消泡剤そのものがはじきの原因となる事もあるため、使い方には注意が必要である。
消泡剤の添加は、通常JA-750Xを2%前後添加するが、撹拌を十分に行う必要がある。
できれば撹拌機の使用が望ましいが、撹拌機がない場合は、添加量を若干多くすると効果がある場合がある(3〜4%)。
但し、消泡剤の添加は、経時変化でふたたびはじきが出やすくなる欠点があり、はじきが再発した場合は、それ以上の添加は接着不良等の別の問題を引き起こすためにできないので、撹拌をやり直す事しか対策がなくなってしまう。
消泡剤の添加は最終手段として、できるだけ添加しないで粘度調整、印刷条件等で改善する事が望ましい。
(2)インキ中の粒子
インキは様々な化学原料の混合物である事から、製造後の経時変化によるインキの変質(原料の凝集、析出)を完全に止める事は困難である。
溶剤型インキは保管条件が良ければ通常2年程度は問題なく使用できるが、できるだけ新しいものを使用する事が望ましい。
インキの保管は、常温以下で温度変化の少ない直射日光の当たらないところで行うようにしなければならない。
尚、冷蔵庫のような温度が低すぎる場所での保管も不適当である。
(冷蔵庫から取り出し缶の蓋を開けたときに、インキ表面で結露し水分が混入するため)
インキに異物が混入する機会は、インキ製造時や印刷作業時等があるが、最もピンホールの原因になりやすいのが、調色時のインキ混合と、希釈時のインキ混合である。
通常は、金属容器かポリ容器中で金属へらを使用して混合するが、この時にへらの角が接触して容器が削れると金属片やポリ片が混入する。
弊社の濾過による試験では、インキ製造時や印刷作業時に混入する異物よりも、これら混合作業時の容器の削りかすが多い事が確認されている。
弊社ではインキ製造時や調色時の混合には撹拌機の使用を心がけており、金属へらの使用は最小限にしているので、容器の削りかすの混入については心配ない。
希釈時のインキの混合もできれば撹拌機の使用が望ましい。
へらを使用するときには、良質のステンレス製へらの角を十分研磨し丸めたものを使用すれば、削りかすの混入をある程度減らす事できる。
最近のスクリーン印刷では、重ね刷り回数の削減や透け・ピンホールの防止を目的として、高濃度・高隠ぺい性のインキが多用される様になってきている。
これらのインキは、顔料含有率が高く、標準タイプのインキに比べて流動性が低下し貯蔵安定性も悪くなっているため、かえってピンホールが発生しやすい場合がある。
従ってこのタイプのインキを使用していてピンホールの問題が発生したときは、標準タイプのインキに変更したり標準タイプのインキとブレンドしたりする事も改善策の一つである。
以上、主に溶剤型インキの場合について考察したが、基本的な考え方はUVインキにも適用できる。