- 総合資料
スクリーン印刷インキの技術動向
1.脱塩ビ化による最近のプラスチック素材への対応
1.1.脱塩ビ化の背景
最近の脱塩ビ化の動きは、一種の社会現象になっている様である。
PVC(ポリ塩化ビニル)がダイオキシン類の発生源であるかのようにマスコミで取り扱われたり、軟質PVCの原料である可塑剤が、環境ホルモン物質ではないかと疑われている。
これらの情報に接した人は、塩ビは環境負荷の高い材料と考えてしまう。
しかしダイオキシン問題に関しては、塩化ビニル環境対策協議会の反証データがあり、公的にも主な発生源では無いことが認められて来ている。
環境ホルモン問題にしても、可塑剤が環境ホルモンと疑わしい化学物質と言われているだけで、まだ決着が付いてはいない。
一方、ISO14000環境管理規格を取得している企業やレスポンシブル・ケア(化学物質の自主的な総合安全管理)活動をしている企業が、自社の環境管理方針に沿って自主的に脱塩ビ化を進めているケースがある。
ヨーロッパへの輸出製品においては、EACEM(欧州民生用電子機器工業会)の規制物質にPVCが該当する事から、やむを得ず他の材質へ切替を行っている企業もある。
このような背景に基づいて、これまでPVCを印刷材料に使用してきた企業が主に企業イメージの低下をおそれて、脱塩ビ化を進めているのが現状と考える。
しかし理由はともあれ、脱塩ビ化はスクリーン印刷業界に対して、印刷素材の変化という形で大きな影響を与えている。
従って代替材料と目される素材に対しては、インキメーカーと印刷会社が協力して対応インキを検討していかなければならない。
現在、PVCの代替として使用または検討されている材料には、次の様なものがある。
この中でも最近は、処理PP系の採用が多くなってきているようである。
またPP材は、これも環境ホルモンの疑いで食器類への使用が控えられる様になったポリカーボネート材の代替材料にもなっている。
1.2.非結晶性ポリエステル材への推薦インキ
非結晶性ポリエステル材としては、A-PET系とこれを変性したPET-G系のペテック、ペットエース等がある。
非結晶性ポリエステル材は、一般の結晶性ポリエステル材に比べ、インキの接着性の点では優っているが、耐溶剤性が少し劣っている。
インキの選択の際には、この耐溶剤性に注意する必要がある。
次表に、非結晶性ポリエステル材に対して印刷可能な当社インキを示す。
シリーズ名 | 本来の用途 | 溶剤 |
---|---|---|
900シリーズ テトロン | PET等 | テトロン標準 |
3500シリーズ EXG | PVC等 | EXG標準 |
8000シリーズ PC | PC等 | PC標準 |
溶剤型インキでは、次の様な条件が重なると印刷面にクラックが発生する事があるので注意を要する。
- 高濃度・高隠蔽タイプのインキ(白、銀、蛍光色など)を用いる場合
(特にEXO色は使用できない。EXO:超隠蔽性の意) - 遅乾性溶剤を希釈剤として用いる場合
- 強制乾燥を行わず、自然乾燥で乾燥する場合
- 完全乾燥する前に、後加工を行った場合
シリーズ名 | 本来の用途 | 仕上がり | 標準硬化条件 |
---|---|---|---|
4200シリーズ PF | PC等 | マット | 500mJ/cm2 |
4300シリーズ OP | 紙、PC等 | グロス | 200mJ/cm2 |
4700シリーズ M | PVC等 | マット | 200mJ/cm2 |
4800シリーズ PS | PS等 | グロス | 500mJ/cm2 |
- UVインキは有機溶剤を使用しないので、クラックの心配はない。
- 4200PF及び4700Mは被膜が柔軟で、後加工性が良好である。
1.3. PP(ポリプロピレン)系材料への対応
PP系材料には、比較的ハードな処理PPシートと、軟質塩ビフィルムの代替材料として検討されている一般的にソフトPPと呼ばれている材料がある。
PP系材料はインキの接着性に難があり、原則として未処理材には接着しない。
処理済みの材料を購入し使用するか、印刷前に表面処理を行う必要がある。
表面処理方法としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プライマー塗布等がある。
ソフトPP材は、基本的にはPPに柔軟性樹脂成分を導入した素材であるが、積層タイプ(サンドイッチ構造)の材料もある。
共に処理済みの印刷向けグレード品が販売されている。
インキは、柔軟性と接着性の点から、700シリーズSPインキに硬化剤JA-960を10%添加する方法が推薦できる。
ただし、市場ではEVA材もソフトPPの名称で流通していることがあるので、注意が必要である。
この場合には、コロナ放電処理等の前処理が必要であるが、処理してもインキの接着が劣るケースもある。
- 印刷可能な溶剤型インキ
- 印刷可能なUVインキ
1.4.レイキュアーCPO 6300シリーズについて
印刷の歴史においては、常に高速化と大量印刷を目指して技術革新が行われてきた。
スクリーン印刷においても同様であるが、現実はオフセット印刷などに比べると速度が劣り、最も速い場合でもオフセット印刷の1/4以下の印刷速度でしかない。
ただしスクリーン印刷においても、シリンダープレス型印刷機を使う場合には、5000回転/時間まで可能な機械が開発されている。
この位の印刷速度になれば、オフセット印刷と比べても印刷コストで対抗できると言われている。
レイキュアーCPO 6300シリーズは、シリンダープレス印刷用の高速印刷適性(毎時3500枚以上)に優れた低光量硬化型UVインキで、広範囲な材質のシート類の印刷に使用出来る。
UVインキの最大の特長である即硬化性を最大限に生かし、更に高速印刷時の刷版上でのインキの流動安定性及びスクリーン通過性について改良されている。
用途は、処理 PPシート等への印刷が主体であるが、紙全般 、処理PETフィルム、ポリカーボネート、ビニール材への印刷にも使用できる。
その他の特徴は、次の通り。
- 低光量(UV積算光量100mJ/cm2)条件での硬化性が優れている。
耐ブロッキング性に関しては照射後の温かい状態で平積みしても問題ない。 - 硬化皮膜は、光沢及び耐摩擦性が優れてる。
- 重金属類やN-ビニルピロリドン等の有毒物は含有しない。
スクリーン印刷ではオフセット印刷の膜厚に比べ10倍以上の膜厚になるため、インキの硬化性には十分な注意が必要である。
高速印刷を行う際には、現在一般的な120W/cmのUVランプ強度よりも更に高出力のランプの採用を検討する必要があるなど、今後の課題は多い。
2. PETリサイクル製品へのUV硬化型インキ
平成7年に俗に言うリサイクル関連法が制定された。
また平成9年には飲料用PETボトルのリサイクルが義務づけられた。
これら規制の影響により飲料用PETボトルの回収、リサイクル化が重点的に検討されている。
PETボトルのリサイクルを実行する際には、ボトルに直接印刷がされている場合には、印刷されたインキ皮膜の除去が必要となる。
そこで当社では、既存のUV硬化型インキであるPES-Bインキ(接着性に優れたPETボトル用インキ)をベースに改良研究を行い、「PES-AKインキ」を新たに開発した。
このインキは、リサイクル処理時のインキ除去の際には、希アルカリ溶液処理で膜状膨潤剥離の形で簡単に除去ができるのが、一番の特長となっている。
プラスチックの再生処理では、脱脂等の目的でアルカリ溶液処理を行うことが多いので、スクリーンインキの印刷皮膜を剥がす手段として、アルカリ溶液処理工程を考えた。
またインキの設計目標は次のように設定した。
- 処理液であるアルカリ溶液の汚染を最低限にする
- 実際の処理システムに合わせて、短時間(約5分以内)で剥離出来ること
- リサイクル処理する前までは、PETボトルへの強固な接着性を有すること
- 耐温水性、耐中身性で実用上、剥離等の問題なきこと
PES-AKインキにおいては、当社の高度な技術力によってこれらの問題点を解決している。
1.に関しては、印刷皮膜をアルカリ溶液中で皮膜の状態で膨潤・剥離するタイプとしている。
2.に関しては、多色印刷で重ね刷りされた4層の印刷皮膜厚(約50µm)において、短時間(2分間)で剥離できるタイプとしている。
(下記物性表参照)
被印刷物 | 処理PETボトル(ぬれ指数 65dyn/cm2) | |
---|---|---|
刷版 | ポリエステル 300メッシュ | |
硬化条件 | メタルハライドランプ | 120W/cm 1灯 |
コンベアー速度 | 10m/min | |
積算光量 | 250mJ/cm2 |
試験項目 | 方法・条件 | 結果 | |
---|---|---|---|
接着性 | クロスカットセロテープ剥離試験 | 100/100 合格 | |
重ね刷り性 | 3色重ね刷りでの接着性 | 100/100 合格 | |
耐アルコール性 | 99.5%エタノール使用 浸漬24時間 | 100/100 合格 | |
耐温水性 | 40℃温水使用 浸漬24時間 | 100/100 合格 | |
耐候性 | サンシャインウェザーメーター 200時間 | 異状なし | |
アルカリ処理 | 1.5% NaOH水溶液 85℃で処理 | 単色 | 30秒で剥離 |
4色重ね刷り | 2分で剥離 |
3.に対しては、PETボトルをフレーム処理してから印刷することによって、接着性を向上させた。
また弊社の接着向上剤JAR-18を印刷時に添加することにより、更に強固な接着となり、4.の性能も向上した。
なおこのインキは、処理PETボトルの他にも、処理PP・PE(成形品)、処理PPフィルムなどに使用可能である。
3. 最近のUVインキ動向
3.1. コンパクトディスク(CD)用UVインキ
ミュージックCDのレーベル印刷では、既に国内・海外共UVインキが主流になっている。
また最近では情報記録媒体として用いられているCD-R(一回だけ書き込み可能なCD)やCD-RW(書き込みや消去が随時可能なCD)にも専用のUVインキが開発されている。
消費者がCD-RやCD-RWを使用する際には、ディスク表面にインキジェットプリンターや筆記具で印字表記が出来なければならないが、「RCD PT-Nクリアー」は、この用途目的に適した機能性を付与されたインキである。
このインキをCD-R表面にスクリーン印刷でオーバーコートし紫外線硬化させると、ジェットプリンターの水性インキの印字に加え、水性・油性のサインペン等の筆記具での書き込みも可能になる。
(RCD PT-Nクリアーは廃止済み。現行品は、RCD PTC-10 CLEAR 。)
下地の押さえ白としては当社CDV-Sシリーズ 01白及び07高濃度白を推薦できる。
(ただしCDV-Sシリーズは、輸出用製品のため国内販売は行っていない。)
被印刷物 | CD-R(コンパクトディスクレコーダブル) | |
---|---|---|
刷版 | ポリエステル 350メッシュ | |
硬化条件 | メタルハライドランプ | 120W/cm 1灯 |
積算光量 | 300mJ/cm2 | |
インキ膜厚 | 10µm |
また当社では、DVDのレーベル印刷用UVインキも開発済みである。
DVD盤は、0.6のCD盤を2枚張り合わせた構造になっており、情報量がCDの約7倍の4.7GBまたはそれ以上に増大している。
そのためDVD盤は、従来のCD盤より更に厳密な歪み精度を要求される。
UV硬化樹脂は、一般に大なり小なり硬化収縮性を持っており、そのため従来のCD用UVインキをDVDに印刷しても硬化収縮が大きく規定以内の歪みに収まらない。
DVDインキは、特殊な原料を組み合わせることにより低硬化収縮を可能にしている。
塗膜が低収縮型であるため、DVDの性能を損なわずに安全に印刷することができる。
またDVDシリーズを従来のCD盤用にも使用できるので、CDとDVDの両方を印刷する工場においても、インキは「DVDインキ」だけを用意すれば対応できる。
「DVDインキ」の特長は、次の通り。
- 高速印刷性に優れている。
- 耐酸性、耐アルカリ性などの耐薬品性に優れている。
- 膜は非常に硬く、耐摩耗性に優れている。
- 皮膚刺激性(P.I.I)が低く、取り扱いが容易である。
- 標準硬化条件は次の通りだが、インキ色によって若干異なる。
- メタルハライドランプ:120W/cm、1灯
- 積算光量300mJ/cm2
3.2.弱粘着及び滑り止めインキ JELCON USLシリーズ
UV硬化型粘着剤のバリエーションとして、弱粘着効果を持つインキが開発されている。
このインキを印刷したフィルムは、貼って剥がしてと繰り返し使用でき、基材面に粘着剤の跡が残らない。
更に粘着効果を弱くして、タックを殆ど感じられない程度にすると滑り止めインキになる。
このタイプのインキは、パソコンのマウスパッドの裏面印刷や、CD盤の仮止め等に応用されている。
JELCON USLシリーズには、品種として次の3タイプがある。
- USL-1
- 滑り止め用。
- 印刷作業性、レベリング性に優れるが、若干不透明な仕上がりになる。
- USL-3
- 透明性に優れるが、レベリングを得るまでに少し時間がかかる。
- 透明性に優れるが、レベリングを得るまでに少し時間がかかる。
- USL-101
- 滑り止め効果に弱粘着性を付与したタイプ。
JELCON USLシリーズの特徴は、次の通り。
- 柔軟な皮膜特性によって滑り止め効果を得ているので、皮膜表面にゴミなどが付着しない限り、繰り返し使用できる。
- 100%不揮発分なので、低臭性で厚膜印刷に適する。
- 滑り止め以外の用途には、仮止めや再剥離用の弱粘着剤としての利用などがある。
印刷方法は、次の通り。
- インキは充分に撹拌した後、そのまま使用する。
- 100〜150メッシュ程度の刷版を使用し、なるべく厚膜に印刷する。
- 印刷膜厚が薄いと、充分な滑り止め効果が得られない。
標準硬化条件は、次の通り。
- UVランプ:メタルハライドランプ120 W/cm、1灯
- 紫外線強度:800 mW/cm2
- 積算光量:250〜500 mJ/cm2(コンベアー速度 5〜10 m/min)
3.3.サンゴ状模様を形成する表面加飾用 FUNCOAT BCP
FUNCOAT BCPは、斬新な印刷表現を可能にする、高品質低価格な表面加飾用UVインキである。
印刷と同時に発泡とランダムなひび割れを起こし、立体的な美しいサンゴ状模様を瞬時に形成する。
特に金、銀箔紙に印刷すると非常に効果的な仕上がりになる。
- FUNCOAT BCP-1
- ハードタイプ
- 発泡安定性良好
- 皮膜強度
FUNCOAT BCPインキは、通常のベタ印刷を行うだけで、印刷直後にサンゴ状模様を形成し、その後は徐々にひび割れ部分が広がっていく。
仕上がりを安定させるため、印刷後紫外線照射機を通すまでの時間を一定にする必要がある。
印刷版には制限がないが、刷版のメッシュ数の違いによりサンゴ状模様の大きさが異なってくる。
低メッシュ版ほど模様が大きく、高メッシュ版は小さな模様になる。
なお他のシリーズのインキで使用した刷版やスキージーを充分に洗浄しないで使用すると、パターンを形成しなくなる事があるので注意を要する。
(シリコン成分が残っている場合)
標準硬化条件は、次の通り。
(スクリーン印刷技術講演会資料より)
- UVランプ:メタルハライドランプ120W/cm、1灯、焦点距離10cm
- コンベアー速度:15m/min
- 積算光量:150mJ/cm2